【観劇日記9】

【エリザベート】その①

ミュージカル好きならどなたもご存じのこのミュージカルに、初めて出会ったのは1996年の宝塚初演の雪組公演だった。

一路真輝トートと花總まりエリザ、ルキーニが轟悠でフランツが高嶺ふぶき、そして現在の香寿たつきゾフィー皇太后は孫のルドルフだった。つまり鞭で打たれた側から打つほうに転生をしたのだ。(なんちゃって)

その時の衝撃は今でも忘れない。宝塚での評判は聞こえていて、それでハードル上げ過ぎるとガッカリするからあまり期待はしないほうが、などと思っていたのだが全くの杞憂に終わった。

それまでの宝塚歌劇とは明らかに異質な作品で、舞台も客席も異様な興奮に満ちていた。

何が凄かったかを的確な言葉で形容するのは難しい。オーストリア帝国の最後の皇后エリザベートの生涯を、虚実混ぜ込んで、非現実な世界で壮大な歴史ファンタジーに創り上げたクンツェ&リーバイの才知と、日本版の脚本・演出を手掛けた小池修一郎の閃きと勘の良さ、そしてそれを受け入れた優秀なスタッフ達が創り上げた稀有な傑作と言って過言ではない。

心に残る楽曲の数々。重厚な舞台装置と衣装、回り舞台や銀橋を上手く使った演出、そして何よりも大変なお稽古を重ねただろうキャスト達の卓越したパフォーマンス。

青い光の中に浮かび上がる一路トートの怪しくも冷凛な美しさ。そして若干23歳だった花總エリザベートの透き通るような美しさ。1幕最後のガラスの間で、階段を下りてくる花ちゃんエリザの辺りを照らす美のオーラは、中年に差し掛かったおばさんの心をも一瞬で鷲掴みにした。

素敵なイケメンを見てドキッとすることはこの歳になってもあるが(笑)美しい女性を見て胸が苦しくなったのはたぶんあの時が最初で最後。

その後各組での上演が続き、ビデオとかDVDとかの媒体でその殆どを観た覚えがあるが、

刷り込み現象なのか初演を超える感動は得られなかった。もういいかなぁ…と感じ始めていた頃に、東宝版が始まって別の熱狂が始まった。(さすが東宝、儲けどころを心得ている)

本物の男性がトートやフランツ、芳雄くんを筆頭に悩める若きルドルフを演じて人気を博した。新曲も増え装置も立派になり、物語にも深みが出てよりリアルで華やかな演目になった。

私も目を輝かして帝国劇場に通い、再演になるたびにまるで釣られた魚のように劇場に吸い込まれた。

特に我が推し田代万里生くんがルドルフに抜擢された時はまさに狂喜乱舞で、1か月に3回同じ演目を観るという自己新記録を達成した。

なにせ自宅から帝劇まで通うのに往復で5時間かかる地方民のわが身、本当に金力&体力勝負だった。

そして推しルドルフの千秋楽での祐さまトートとの闇広は、それまで聞いたどの組み合わせよりも素晴らしくて身体が震えた。

歌い終わった時の地鳴りのような拍手と歓声に、塩ちゃんはもうタクトを振らず、推しは一点を凝視して微塵も動かず、祐さまはもはや役を離れて愛しそうにルドルフを見ていた。

カーテンコールで、自身の千秋楽のご挨拶をしようと一歩前にでた途端、ポロポロと泣き始めて言葉が出てこなかった。「頑張って~」という客席からの応援に反応したのか、涙を拭いて、たぶん用意してあった感謝の言葉を述べた。

私はもう鼻水混じりのボロ泣きで、嗚咽をこらえながら心の中で「よく頑張った」を繰り返していた。ダンスは子供のころのフォークダンスしか経験がなくて、毎日夜の10時まで特訓を受けても、「歌は素晴らしいがダンスはダメ」と評されて、本人もさぞかし辛かったことだろう。

一緒に連れて行ったミュージカル初心者の友人にも「地を這うようなダンスね」と評され、何よりトートダンサーの顔つきがいつもと全然違った。他のルドルフの時は死神らしい能面の顔をしていたが、推しの時だけ何とかフォローしなくちゃという決意に溢れた保護者の顔だった。(笑)そして私は、完全に母親の気持ちで祈っていた。

推しの話ばかりで申し訳ない。私の悪い癖です、お許しを。

推しも卒業したし、宝塚版から数えるともう飽きるほど観ているし、ストーリーも展開も全部わかっているし、なんならナンバーも全部歌えるし、もういいかなぁ…と思っていた2015年、新たなキャストが発表された。

出来立てのフライヤーを手に取ると、トート:井上芳雄・城田優、フランツ:田代万里生・佐藤隆紀、ルキーニ:山崎育三郎・尾上松也、そして燦燦たる輝きをもって目に飛び込んできたエリザベート:花總まり。(蘭乃はなちゃんごめんなさい)

ああああぁ、東宝さん、ズルい!!

推しのフランツより嬉しかった花ちゃんエリザ。心の中でずっと待ち続けていた人が遂に帰ってきた喜びで、消えかかっていた炎がまたボウボウと燃え盛って再び東宝の手の内に。(笑)

あれから10年、もう花ちゃんはいない。芳雄くんも今シーズンで卒業らしい。推しももう10年演じているから5年後の新帝国劇場には立っていないかもしれない。

3度目の「もういいかなぁ…」だったのだが、芳雄くんと我が推しの見納めかもだし、宝塚89期生同士のエリザにも魅かれるものがあったので、これが最後と決めてチケットを申し込んだ。

ところがなんと…、チケットがない!!

先行抽選はすべて外れて、優しかったFCにもそっぽを向かれた。こんなハズではなかったのに、観たくても観られない事態になっていた。そうなると人間は強欲なもので、何が何でも観たくなった。幸い友人が当ててくれたA席1枚と配信2回。これで身を引くことにしようと決心した。

この30年で少なくても20回以上は舞台を観ているし、映像も含めるとエリザに浸った時間はおそろしく長い。作品自体への興味はもはやないに等しいが、ただキャストが変わる度にスケベ心が起きて「どんなだろう?」と気持ちが悶えて、まんまと今日まで東宝に踊らされてしまった。(笑)

観劇日記を書くつもりが、これではまるで「エリザベートと私」というエッセイのようだ。しかも誰が読んでもたいして面白くもない内容で。これではいけないわ、うん。

ちょっと長くなりそうなので、ここで一旦区切って二分割します。後半は今回の感想とこのミュージカルの核心に迫ろうと思いますので、良かったら読んでくださいませ。